借金の返済が滞ってしまい返済が困難になってしまった多重債務者の救済方法。

無計画な借金を繰り返し、多重債務に陥って返済が困難になり、自暴自棄になり借金問題を放置しても利息が膨らむだけで何の解決にもなりません。

借金には時効がありますが、債権者は当然「時効の延長」「時効の中断」をするため借金が時効により消滅することはないと思ったほうがいいでしょう。

借りたお金を返すのは当然のことですが、自殺・夜逃げという事態にまで債務者を追い込むことが正しいと言い難く、日本には借金で生活が成り立たなくなってしまった多重債務者を救済する『債務整理』と呼ばれる救済制度があります。

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債務整理

債務整理は、借金の減額、免除、支払いに猶予を持たせたりすることで、借金のある生活から債務者を救済するための法的な手続の総称です。

主な方法として『任意整理』『個人再生』『自己破産』の3種類があります。

払いすぎた利息を取り戻す手続きの『過払い金請求』も債務整理の一種になります。

他にも消滅時効の援用や相続放棄、限定承認などにより債務整理をすることがありますが、単純に借金を繰り返し多重債務に陥ったケースでは『任意整理』『個人再生』『自己破産』が用いられるのが一般的です。

但し、債務整理は何ら不利益も無く、ただ単に借金が減免される債務に有利な制度ではありません。

債務整理を検討している人は、何を選択するのが債務者にとって最も有利か、後の生活に影響を及ぼす可能性があるデメリットやリスクに何があるのかを正しく理解して、早い段階で専門家に相談するようにしましょう。

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任意整理

任意整理とは、債務者の生活を立て直すため弁護士が代理人となり、裁判所を介すことなく、債権者との話し合いにより、借金の減免、返済期間の延長・猶予、金利の引き下げなど、借金の返済方法を見直す任意の債務整理手続きです。

任意整理は裁判手続きではないため強制力がない

このため任意整理は債権者の同意がなければ話し合いは成立しません。

また、手続き後も返済が継続するため、収入や信用がなければ応じてもらえる可能性は低いでしょう。

任意整理は債権者にとって不利益が生じるため応じてもらえないと思われがちですが、任意整理に応じず、個人再生や自己破産をされたら借金が帳消しになってしまう可能性もあることから債権者は応じざるを得ない状況にあります。

任意整理のデメリット・短所

任意整理は裁判外の交渉のため、個人再生や自己破産のような法律上の制限がありません。

このため必ずしも債権者が任意整理に応じてくれるとは限りません。

現在は柔軟な対応の金融業者も増えてきていますが、任意整理には一切応じないという姿勢の金融業者も存在します。

また、話し合いに応じてくれたとしても、借金の減額・免除はなかなか難しく、金利の引き下げや、毎月の返済額の減額などに限られ、手続き後も返済は継続します。

過払い金が発生している場合を除き、任意整理で借金がなくなることは無いと思っていいでしょう。

任意整理の最大のデメリット・短所は、信用情報に事故情報(いわゆるブラックリスト)に登録されてしまうということです。

ブラックリストに登録されると、完済から5年間程度の期間は新規の借入れやクレジットカードの発行、新たにローンを組むことなどが極めて困難になります。

過払い金の請求

任意整理には『過払い金請求』といって、払いすぎた利息を正しい金利で計算しなおして過払いになった金銭を不当利得(民法703条)として返還請求する方法があります。

借金の利息は法律により上限が定められていますが、以前は『利息制限法』『出資法』という2つの上限利息の法律がありました。

  • 利息制限法:上限金利 20%
  • 出資法:上限金利 29.2%

利息制限法と出資法では上限金利が異なり、この間の金利がグレーゾーン金利とされていました。

グレーゾーン金利でお金を貸し付けをしても罰則がなく、貸す側は高い利率でお金を貸した方が収益が大きいため、法律を自分に都合のいいように解釈して、出資法の利率を適用してお金を貸していました。

しかし、2006年12月13日の貸金業法が改正され、2010年6月18日には改正貸金業法が完全施行されたことで、利息制限法と出資法の間であるグレーゾーン金利が撤廃されました。

これに伴い、過去にグレーゾーン金利で払っていた利息は払い過ぎということになり、過剰に支払った金利として返還請求ができるようになりました。

過払い金の請求は完済後に限らず返済中に行うこともできますが、返済中の過払い金の請求は「請求することにより借金が無くなるケース」と「過払い金を請求しても残金が残る」ケースでは後の信用度(ブラックリストの登録状況)に大きな差が生じるため注意が必要です。

過払い金の請求については別ページで詳しく解説しています。

個人再生(民事再生)

民事再生(個人再生)は、民事再生法という法律に基づいた手続きで、裁判所を介して行われます。

民事再生手続きの中でも個人の債務者を対象にしたものを"個人再生"といいます。

(以下、個人再生と呼びます)

個人再生をすることで債務の一部を免除にしてもらい、残りの債務を分割して支払っていくことになります。

債務の一部が免除になるという点は自己破産と共通する部分があり、分割して支払っていく点は任意整理と共通する部分があります。

難しいことは無しに、任意整理と自己破産の中間の手続きという認識でいいと思います。

個人再生(民事再生)の種類

個人再生には『小規模個人再生』と『給与所得者等再生』という2種類があります。

利用できる条件が異なるため、検討されている人は自分がどちらを利用することが可能なのか確認する必要があります。

小規模個人再生

小規模個人再生は、小規模の事業者を対象として設けられた制度ですが、実際には会社勤めのサラリーマンなど給与所得者も利用することが可能です。

内容も債務者にとっても有利なものになっているため、個人再生の利用者の大半が、小規模個人再生を利用しているといってよいでしょう。

しかし、小規模個人再生は、債権者の一定数以上は同意しなければ再生計画の認可を得られない可能性があります。

給与所得者等再生

給与所得者等再生は、給与所得者など定期的で変動の小さい収入のある債務者だけしか利用できない手続ですが、債権者の異議があっても、要件を充たしていれば再生計画が認可されます。

このため、債権者からの異議により小規模個人再生を利用できないケースでは、給与所得者等再生を選択することになります。

但し、給与所得者等再生は、可処分所得の2年分以上を最低でも返済しなければならないと定められているため、小規模個人再生よりも返済総額が高額になるケースが予想できます。

個人再生(民事再生)のメリット・デメリット

債務者を救済する個人再生ではありますが、債務者に何ら不利益も無く、ただ単に借金が減免される制度ではありません。

債務整理の中でもメリットが大きく、債務者にとって不利益が少ない手続きではありますが、後の生活に影響を及ぼすか正しく理解する必要があります。

個人再生のメリット

個人再生は裁判手続きのため強制力があります。所有する財産を処分されること無く、資格制限などの制限もありません。また、免責不許可事由があっても利用が可能です。

主な個人再生のメリットは下記の通りです。

  • 所有する財産を処分されることがない。
  • 資格の制限がない。
  • 免責不許可事由があっても債務整理できる。
  • 任意整理とは異なり裁判手続なので強制力がある。
  • 大幅な債務の減額(最大10分の1)が可能となる。
  • 減額された債務を3年~5年の分割払いにできる。
  • 住宅ローンが残っている自宅を処分せずに債務を整理できる。

住宅資金特別条項を利用できる場合は、住宅ローンの残っている自宅を処分せずに借金を整理することができるため、持ち家の債務者の大半が自己破産ではなく個人再生を選択しています。

個人再生のデメリット

個人再生は大きなメリットがありますが、手続きが複雑で要件が厳しいため、全ての債務者が利用できるとは限りません。

また、最大のデメリットは、信用情報(いわゆるブラックリスト)に事故情報として記録が残るため、10年間程度の期間は新規の借入れやクレジットカードの発行、新たにローンを組むことなどが極めて困難になります。

主な個人再生のデメリットは下記の通りです。

  • 手続きが複雑で要件が厳しく、手続を債務者自身で進めなければいけない。
  • 信用情報(いわゆるブラックリスト)に事故情報として記録が10年間登録される。
  • 個人再生をしたことが官報に公告されるため、誰にも知られずに利用することはできない。

破産手続(自己破産)

破産手続とは、破産法という法律によって規定される法的な手続きで、裁判によって債務者(破産者)の所有する財産を換価処分して債権者で公平に配当する手続のことをいいます。

破産手続は裁判所に破産手続開始の申立てをすることによって開始されますが、破産手続開始の申立ては債権者と債務者のいずれもすることができます。

債務者が破産手続開始の申立てをするのが一般的ですが、借金の回収を見込めないような場合は、債権者が申立てをして、債務者が所有する財産を処分することにより強制的に借金の回収をするようなケースもあります。債権者が破産手続開始の申立てをすることを「債権者破産申立て」と呼びます。

破産する債務者が破産手続開始の申立てをすることを、自分で申し立てる破産という意味で「自己破産」と呼んでいます。

自己破産手続きの流れ

自己破産および免責の手続を開始するためには、管轄の地方裁判所に対して、「破産手続開始・免責許可」の申立書を提出する方式で、破産手続開始の申立て及び、免責許可の申立てを行う必要があります。

申立書を受理した裁判所は、その内容を審査して、破産の要件を充たしていると判断すれば、破産手続開始の決定をします。

この際に、管財手続とするか同時廃止手続とするかも決められます。

自己破産のデメリット・短所

自己破産は多重債務に陥った債務者の救済処置の中でも最終手段といえる手続きで、免責が下りれば借金の返済が免除になります。言い方が適切か分かりませんが、「借金がチャラになる」「法律に基づいて踏み倒す」といった感じでしょうか。

しかし、後の生活に及ぼす影響は少なくありません。

自己破産のメリット・デメリットを正しく理解して債務整理の中でも自己破産を選択するのが最善なのかを正しく理解する必要があります。

信用情報機関に事故情報が登録される

自己破産をすると、信用情報(いわゆるブラックリスト)に事故情報として記録が残るため、10年間程度の期間は新規の借入れやクレジットカードの発行、新たにローンを組むことなどが極めて困難になります。

しかし、信用情報に名前が載るのは、任意整理も個人再生も同じです。

自己破産の場合は、10年と期間が長いというだけで債務整理をする人にとっては期間が長いというだけで自己破産に限ったデメリットではありません。

返済義務の免除・財産の処分

自己破産は正確には、破産者の財産を処分してそれを債権者で分配することにより、破産者の債務を免除する手続です。

処分される財産は、預貯金などの「現金」は当然ですが、有価証券・保険などの金銭と同等に扱われるもの、不動産・車・高級ブランド品などの「物」の他に、金銭の請求権などの債権・著作権などの「無形の権利」など、その範囲は広域に渡ります。

いわば、裸一貫になって人生をやり直す手続きということです。

全ての財産が処分されるわけではない

免責が許可され借金が無くなったとしても、全ての財産を没収されてしまったら、その後の生活が成り立たず、自己破産をした意味がなくなってしまい、債務者の経済的更生を図るという破産手続の目的が達せられません。

このため、個人の自己破産の場合には全ての財産を処分しなければならないとまではされていません。

所有する財産の中でも、「自由財産」と呼ばれる財産に該当するものは処分しなくてもよいことになっています。言い換えれば、個人の自己破産で処分しなければならない財産とは『自由財産に該当しない財産』ということになります。

また、自由財産に該当しなくても、状態等の理由により換価価値の無いようなものは換価対象にはなりません。

資格の制限

破産手続を開始することによって一定の資格を得ることができなくなる、あるいは資格を失う・制限される場合があります。

資格制限は破産法には規定されていませんが、資格の取得要件等を定める法律に個別に規定されており、資格制限の対象となる資格には公的資格や職業に関するものが多い傾向にあります。

但し、自己破産によってすべての資格が取得できなったり、使えなくなったりするわけではなく、影響を受ける資格は限られています。

また、免責許可を受ければ、資格は元通りに使えるようになったり、取得することできます。

自己破産をすることにより、資格を失ったり・制限を受けることで結果として仕事を失ってしまったり、資格取得を目指している人は、資格の制限期間を確認するようにしましょう。

自己破産の事実が官報により公告される

自己破産をしたことは、官報に掲載されて公告されます。

官報とは,法律・政令等の制定・改正の情報や、破産・相続等の裁判内容が掲載される国が発行している新聞のようなものです。

官報には名前や住所が掲載され、個人情報の保護を理由に掲載を止めることはできません。

したがって、誰にも知られずに自己破産をすることはできません。

但し、官報を購読する人は限られたごく一部の人だけです。通常であれば周りの人みんなに知られてしまうということはあまりないですが、絶対にバレない保証はありません。

住所を自由に移転できなくなる

自己破産の手続中は住居を自由に移転することはできなくなります。

住居を移転する場合には,事前に裁判所の許可を得ておくことが必要となります。

長期間の出張や海外旅行なども制限されることがあります。

しかし、実際には連絡先さえしっかりしていれば裁判所は移転を許可してくれるのが一般的です。仕事による出張は連絡が取れる状況にあれば間違いなく許可は下ります。

要は、必ず連絡が取れる状況にいなければいけないということです。

ただし、いくら連絡が取れる状況にあっても、海外旅行は、裁判官の心証を害する恐れがあるためできる限り控えた方が無難です。

また、これらの制限は破産手続の間だけの話です。破産手続が終了すれば自由に住居の移転、海外旅行もすることができるようになります。

郵便物が破産管財人に転送される

自己破産をすると破産手続きの期間中は、通信の秘密も制限されます。

具体的に通信の秘密の制限とは、自己破産の手続中は郵便物が破産管財人に転送され、内容をチェックされるということです。

なお、これらの制限は破産手続の間だけの話です。また、転送されるのは郵便物だけで、宅配便は転送されません。

債務整理は何を選択するのが債務者にとって有利か

任意整理、個人再生、自己破産の中から何を選択するのが最も有利なのかという質問に対し、他のサイトでは明言を避けていますが、当サイトでは『個人再生』をおすすめします。

自己破産ではなく個人再生なのかというと、たしかに自己破産は借金の返済が免除になるかもしれませんが、デメリットが大きすぎます。

自己破産は債務者が所有する財産を処分して債権者で分配することで破産者の債務が免除になる手続きです。自己破産をするのですから、たいした財産は残っていないかと思いますが、没収される財産の範囲が非常に広く、当然持ち家の人は自宅も処分されてしまいます。

個人再生は、所有する財産を処分することなく、住宅資金特別条項を利用できる場合は、住宅ローンの残っている自宅を処分することなく借金を整理することができます。

実際に持ち家(ローン支払い中)の人の大半が自己破産ではなく個人再生を選択しています。

また、債務整理を検討している人の多くが信用情報(いわゆるブラックリスト)に事故情報が記録されることを懸念していると思いますが、期間が違うだけで全てがブラックリストに登録されてしまいます。

任意整理の5年と比較すると個人再生・自己破産は10年で大きな開きがありますが、実際に個人再生、自己破産をした人からは下記のような声が聞かれます。

  • クレジットカードを持たないことで無駄遣いが減りお金が貯まる。
  • 電子マネー(事前チャージ)は使えるから生活に不便は感じない。

一方で個人再生と自己破産ではメリットに大きな違いがありません。

自己破産は借金が免除になりますが、財産を処分されてしまいます。個人再生は借金が全額免除になることはありませんが、財産を処分されること無く借金の大幅な減額が可能(最大10分の1)で、返済期間も3年~5年という余裕を持った返済が可能です。