実現には人権制約・人権侵害の壁、性犯罪者にGPS装着義務化は再犯の抑止力になるか?

政府は2020年6月11日、内閣府で関係府省会議を開き、性犯罪・性暴力の根絶に向け対策を強化する政府方針案を決定しました。総合的な政府方針がまとまるのは初です。

被害者支援(心のケアなど)の充実化の他に、再犯防止のため執行猶予期間中、または仮釈放中の性犯罪者にGPS(全地球測位システム)の装着の義務化が盛り込まれました。

7月にまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に反映させる方針です。

アメリカやヨーロッパ、韓国などでは既に導入されている制度ですが、加害者の人権が手厚く守られている日本での導入にはクリアしなければならない壁が存在します。

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人権制約・一事不再理

性犯罪者に対して、再犯防止のためGPSの装着を義務化することに対して、世間の反応は概ね賛成の様ですが、日本が法治国家である以上、加害者にも守られるべき、人権・権利があります。

また、この制度に対して一部から、受刑者の社会復帰の阻害を懸念する声もあります。

GPS装着の強制、義務化は慎重に検討・議論しなければならない問題です。

【人権制約・人権侵害】
性犯罪者に対してGPSの装着を義務化し、常時行動を監視する制度を行う場合、憲法で保障されている「プライバシー権」「居住・移転の自由」等、権利の侵害に該当する恐れがあります。
【二重処罰の禁止】
判決が決まり処罰されたのであれば、同じ事件について再度処罰されるということはないという原則があります。(憲法39条)

また、性犯罪は再犯率が高いとされていますが、薬物事件の方がはるかに再犯率は高く、再犯率の高さを理由にGPSの装着を義務化することは合理性に欠けると言わざるを得ません。

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人権制約・人権侵害

性犯罪の再犯防止のため、GPS装着の義務化・強制化は、既にアメリカをはじめとする諸外国では既に導入されており、一定の効果を上げている一方で、プライバシーなどの人権侵害や社会復帰の阻害を懸念する声もあります。

GPS装着の対象を仮釈放期間とするのか、執行猶予期間中とするのか、刑期を終えた前科者まで広げるのか決まっていませんが、有罪判決を受けた者に対して、GPSの装着を義務化して日常生活を監視することは、対象者の行動の自由やプライバシー権を制約するものであり、現行法では強制することはできません。

目的は再犯防止という正当なものではありますが、実現するには法律の改正、または立法措置を講じて新たな法律を作る必要があります。

現に、これまでGPSによる行動監視については何度も議論がされてきました。2011年 宮城県が性犯罪の前歴者やDV加害者に対して、GPSの携帯を義務付ける条例制定を検討したことがあり、2018年には新潟県でも性犯罪者にGPSを利用した監視の検討を国に対して求める意見書を可決しましたが、いずれも人権侵害となるおそれが指摘されて実現には至っていません。

二重処罰の禁止(一事不再理)

日本には「一事不再理」の原則があります。(憲法39条)

裁判で判決が確定して処罰されたのであれば、同じ事件について再度処罰されるということはありません。

懲役刑が確定した者に対する罰は「懲役」であり、服役をした者に対して、GPSの装着を義務化・強制化することは「行動の自由に対する制約」「プライバシー権の侵害」となる可能性があり、憲法39条が禁止している"二重の罰"に当たる恐れがあります。

【憲法39条】
何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

また、法律が定めるところの処罰とは異なりますが、GPSを付けていることにより過去の犯罪を周囲に知られることになり、社会的差別・社会的制裁を受ける危険性があり、社会復帰の妨げになる可能性が考えられます。

実現には立法措置を講じる必要がある

性犯罪の被害者は心に深い傷を負い、受ける精神的なダメージは計り知れません。

GPS装着の義務化は一般論、世間感情からすれば制度化すべきという声が多数を占めますが、多く聞かれますが、繰り返しになりますが日本が法治国家である以上、加害者にも守られるべき、人権・権利があります。

現行法で性犯罪者を含め、いかなる人物に対してもGPSの装着を義務化・強制化することはできません。

しかし、現実に性犯罪者の中には、有罪判決を受けた後も同じ犯行を繰り返す者が一定数いることも事実です。GPSの装着の義務化・強制化することにより、再発防止に一定の効果があることは諸外国のデータからも証明されており、有効な手段となっています。

GPSの装着の義務化・強制化を実現するには、対象者に人権制約があることを認識したうえで、被害者の声・再犯率のデータ、諸外国における抑止力の効果などのデータを提示して、人権を制約したとしても、それでも必要であるという事を訴えていく必要があります。