コロナウィルス感染症拡大防止により、緊急事態宣言による営業自粛要請が出ている中で、指示に従わずに営業を続けるパチンコ店に対して、多くの批判の声が上がりました。
しかし、緊急事態宣言には法的な強制力はなく、あくまでも任意の協力です。休業補償も無く、他業種では受けることが出来る特別の融資制度も風俗業であるパチンコ店は対象外です。
全面的に支持できるものではありませんが、営業し続ける店側の「営業しなければ倒産してしまい、従業員や取引先に迷惑をかけてしまうから営業せざるを得ない」という主張は一部で理解できる面もあります。
今回の件で問題とされているのは、緊急事態宣言が出され不要不急の外出を控えるよういわれているなかで、朝からパチンコ店に行列を作るお客です。近所の店が休業すれば県をまたいでも営業している店舗を探してパチンコに興じる姿は、もはや深刻な依存症としかいえません。
深刻な依存症問題
いわゆるギャンブル依存症は1970年後半に、WHO(世界保健機関)において「病的賭博」という名称で正式に病気として認められました。
ギャンブルがやめられないメカニズムはアルコール依存症や薬物依存症と似ている点が多いといわれ、アルコール依存症等と同じ疾病分類に「ギャンブル障害」として位置づけられ、依存症として認められています。
リスク因子として、年齢、性別、ストレスの発散が上手にできない、ギャンブルが身近にあるなどの環境要因などが指摘されており、誰でもギャンブル依存症になる可能性があります。
パチンコやスロットの場合は、機械そのものに依存させる要因があります。
あと一歩で当たるリーチと呼ばれる場面を見ると、脳の中の高揚感を感じる部位の働きが活発になり、ドーパミンと呼ばれる中枢神経に存在する神経伝達物質の分泌が活性化されるとギャンブルを続けたいと思わせてしまいます。
また、パチンコ台やスロット台の画像や音響には、負けていても勝っているかのような錯覚をおこさせて脳内の報酬系を活発にする効果があります。
【ギャンブル依存症の症状】
- ギャンブルにのめり込み、周囲の忠告を聞き入れられない
- 予算を決めて遊ぶつもりがその範囲で収まらない
- 他の買い物では躊躇するような金額でもギャンブルなら使えてしまう
- 負けたお金はギャンブルで取り返そうと思っている
- 嘘をついて借金をしている。そのお金でギャンブルをしている
依存者の多くが、大勝ちしたときの鮮明な記憶は残っているが、負けた時のことはすぐに忘れたり、負けが続いても最終的には勝てると思い込んで大金をつぎこみ冷静な判断ができない状況にあります。
パチンコ・スロットは賭博に該当しない
今回のコロナ騒動でパチンコの深刻な依存症問題が浮き彫りになりました。
しかし、日本ではパチンコ・スロットなどの依存者に対しての対策が遅れていると言わざるを得ません。
理由は、パチンコ・スロットは賭博(ギャンブル)ではなく「遊技」という扱いになっているからです。
日本では公営以外の賭博(ギャンブル)は禁止のため、パチンコが賭博という事になれば営業している全てのお店が違法営業という事になってしまいます。しかし、パチンコ・スロットは賭博には当たらない「遊技」という事になっています。
世間一般的な認識としてはギャンブルであるにもかかわらず、なぜ日本の法律は遊技ということになっているのでしょうか。
遊びとして行うわざ。娯楽として行うパチンコ・マージャン・ビリヤードなどの勝負事。特に、ゲームに景品などがかかった遊びや勝負事。
金銭や物品を賭けて勝敗を争うこと。刑法第185条で50万円以下の罰金または科料の罰則が定められている。但し「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りではない」とされ、仲間内で常識的な範囲の食事代を賭けたりすることは罪に問われない。
賭博(ギャンブル)とは刑法においては、「金品などを賭け、偶然性の要素を含む勝負を行い、その結果によって賭けた金品の再分配を行うもの」をいい、「賭博」は、賭博罪として刑法185条によって禁じられています。ここでいう「金品」には景品(物品)も含まれます。
しかし、風俗営業法では、現金や有価証券は禁止されていますが、パチンコ店が賞品を景品として出すことは認められているため、刑法第35条の「法令又は正当な業務による行為」として刑事罰の対象にはなりません。
景品の現金化(三店方式のカラクリ)
勝っても得られるものが景品だけならゲームセンターです。
パチンコ店が批判を集めるグレーゾーンの部分が、三店方式(さんてんほうしき)と呼ばれる景品の現金化です。
三店方式とは、全てのパチンコ店で導入されている営業形態で、パチンコ店・景品交換所・景品問屋の3つの業者、及び、パチンコ遊技者(お客)が特殊景品を呼ばれる景品を経由することで、出玉と金銭を違法性を問われにくい形で交換することが事実上可能にしているパチンコ玉の現金化のシステムです。
パチンコ店、景品交換所、集荷業者、卸業者と四店を経由する場合もあり、この場合は「四店方式」と呼びます。
特殊景品は、三店方式の業者が取り扱うパチンコ玉・現金と交換可能な品物である。 金地金をプラスチックパッケージに収めたもので、パチンコ遊技者はパチンコ店でパチンコ玉と特殊景品を交換し、景品交換所で特殊景品と現金を交換することが出来る。景品問屋は景品交換所から特殊景品を買い取り、パチンコ店に卸している。
【三店方式による出玉の現金化の流れ】
- 客がパチンコホールに来ると、遊技場営業者であるパチンコホールは客の現金と遊技球(いわゆる「出玉」)を交換する。
- 客はパチンコで増やした出玉をパチンコホールに持参し、パチンコホールは出玉を特殊景品と交換する。
- 客が特殊景品を景品交換所に持参すると、古物商である景品交換所は特殊景品を現金で買い取る。
- 景品問屋が景品交換所から特殊景品を買い取り、パチンコホールに卸す。
ただし、賭博性を伴っているため、この営業形態に対して脱法行為・違法性の意見があり国会でも引き続き議論されています。
脱法行為・違法性の可能性
三店方式によりパチンコ店は出玉を現金と交換していないからといっても、世間一般の認識としては、賭博性を伴っているため、この営業形態に対して脱法行為・違法性の払しょくには至らず、法の抜け穴、グレーゾーンというイメージしかありません。
テレビや新聞など公共性が高いメディアでも「容疑者はパチンコなどのギャンブルによる借金のため…」といった表現が使われ、日本の証券取引所は「出玉の景品を換金する業界慣行の合法性があいまいなため、投資家保護を果たせない」としてパチンコホール運営会社の上場を認めていません。
「三店方式により、パチンコの換金は違法性をクリアしている」と主張する人がいますが、お客、パチンコ店、両替所、景品問屋のそれぞれの行為を一連の流れとして捉えれば、全員が賭博罪の共犯です。
パチンコ店が客の出玉を直接、買い取る、現金と交換するという単純な方式では直ちに違法となるため、三店方式が用いられていることは周知の事実であり、賭博罪の犯意があると見なされても言い訳はできません。
実際に、東京都公安委員会(警視庁)の営業許可を受けた複数のカジノバーが三店方式による換金をはじめましたが、警視庁は賭博罪で摘発しています。
パチンコは賭博であり、遊技でもある
「パチンコ店は遊技であり、賭博です」これが答えです。賭博罪に問われるか否かは法律の解釈の違いです。
日本の法律では賭博の全てが禁止されているのではありません。
刑法第185条は「原則的に」賭博は禁止していますが、一方、但し書きで「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」という例外を定めています。
賭博罪を適用する際は、公の秩序を乱していないか、射幸心をあおっているか、賭け金の額、などを基準に立件の可否が検討されることになります。
しかし、パチンコは多くの人がギャンブルという認識です。世間の認識から大きくかけ離れた法律は見直されるべきです。
今回のコロナ騒動が無ければ、今頃IR法案(カジノ法案)が議論されていることでしょう。しかし、今回のコロナ騒動から浮き彫りになったギャンブル依存症問題は、IR法案に与える影響は少なくなく、ギャンブルの依存症問題、パチンコの脱法性も合わせて議論されることになるでしょう。