新型コロナウィルスの感染が拡大する現在の情勢では、誰もが感染する恐れがあります。
キャバクラやホストクラブといった接客を伴う夜の飲食店や風俗業などは感染のリスクが高く、実際に日本一の歓楽街、歌舞伎町がある東京都新宿区では感染者の4人に1人が夜間営業の飲食店の関係者です。
誰もが神経質になっている昨今は、軽率な行動や、お店での軽い冗談、悪ふざけのつもりでも予期せぬトラブルに巻き込まれ、逮捕されたり損害賠償を請求されてしまう可能性もあります。
自分が新型コロナウィルスに感染しているのに、来店・出勤して誰かを感染させてしまったなど、どのようなことをしたら刑事上の責任を問われ犯罪になり、あるいは民事上の責任を問われ損害賠償の責任を負うのか、法律に基づいて解説します。
なお、下記は新型コロナウイルスが危険なウイルスであることが前提です。今後、予防薬・治療薬が開発され、単なる風邪のような扱いになれば刑事事件にもならず、損害賠償ということにもならないでしょう。
傷害罪・暴行罪
自分が新型コロナウィルスに感染していることを知らずに、お店に来店、出勤して新型コロナウィルスを移してしまっても、故意に移したのでなければ刑事上の責任も民事上の責任も発生しません。但し、自分が感染していることを知らないということが前提です。
コロナウィルスに感染することは、あなたの過失ではありません。落ち度がない人に刑事上の責任も民事上の責任も発生しません。逆に移された側も移した相手に責任を問うことはできません。
自分が新型コロナウィルスに感染していることを知っている場合であって、故意に誰かを感染させようと考えて、目の前でくしゃみをしたりすれば傷害罪や暴行罪に問われる可能性があります。
その根拠は、過去の裁判の判例で、『自分が性病に掛かっていることを知りながら性交渉をして被害者にうつしたケースで、傷害罪の成立を認めたことがあります』そこから考えると、新型コロナウイルスでも傷害罪の成立は皆無とはいえません。
但し、感染者であっても生理現象で咳やくしゃみをしただけであれば故意がないので、傷害罪も暴行罪は成立しません。
また、特定の患者の咳やくしゃみによって感染したという因果関係を証明することはかなり難しいと思います。
業務妨害罪
業務妨害罪には、『虚偽の風説を流布したり偽計を用いたりする偽計業務妨害罪』と、『威力を用いる威力業務妨害』の2つがあります。
ネットなどに「〇〇という店で新型コロナウイルスの感染者が出た」などと嘘の書き込みをすれば偽計業務妨害罪が成立します。
自分が新型コロナウィルスに感染してることを知らずにお店に来店、出勤して、後に感染が発覚した場合、お店の業務は消毒などで一定期間止まってしまいます。お店のその業務を妨害したことになります。
但し、お店を閉める、消毒をするというのはお店の判断であって法的な決まりではありません。
しかし、自分が新型コロナウィルスに感染していることを知りながら来店・出勤するという行為には、偽計があったと考えることもできそうです。しかし、その行為について証拠を整えて証明するのは簡単ではありません。
民事上の損害賠償責任
自分が新型コロナウィルスに感染していることを知りながら来店・出勤した場合、民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任が発生する可能性があります。
消毒費用は損害になります。消毒のために休業を余儀なくされた期間の売上減少も損害になります。
難しいのは、風評被害による売上減少です。感染者の来店・出勤という加害行為と、風評被害による売上減少には因果関係があかもしれませんが、因果関係の証明と損害額の算定は困難です。
誰かに感染させてしまった場合の治療費も損害賠償の範囲に入ってきますが、こちらも因果関係の証明が必要です。
民法709条の不法行為責任は、故意だけでなく過失によっても生じます。新型コロナウイルス陽性の診断を受けた人は当然ですが、PCR検査は行っていないが症状があるという人も不用意な外出しない方が得策です。