学生納付特例制度によって猶予された国民年金保険料は追納(納付)すべき?しなくても大丈夫?

学生は20歳になったとき、「普通に年金を納める」か「特例制度を利用して年金の納付を猶予してもらう」かを選択することができます。

特例制度を選択した学生は猶予してもらった期間の国民年金保険料を「後から納付(追納)する」か「そのまま納付しない」かを選択することができます。

筆者は友人などから、大学を卒業して、社会人になり仕事も順調である程度経済的な余裕が出来てきたので、学生時代に猶予されていた国民年金保険料を追納(納付)を考えているけど、追納した方がいいのか(得なのか)、その必要ないのか(損なのか)という質問を受けることがあります。

専門家でも意見が分かれるこの質問を、分かりやすく納得してもらえるよう解説をします。

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学生時代に猶予された国民年金保険料は追納すべきか

学生時代に国民年金の「学生納付特例制度」で猶予された国民年金保険料の納付(追納)は義務ではないので このまま納めなくても滞納・未納という扱いにはなりませんが、猶予を受けた場合、その分は、老齢基礎年金の給付額が減ることになってしまいます。

20歳~60歳の40年間 国民年金保険料を納めた(完納)場合、1年あたり満額の77万9300円(以下、78万円)の老齢基礎年金を受け取ることができます。

老齢基礎年金を満額 受け取るには納付済み期間が40年必要です。例えば、学生時代に2年間 猶予を受け追納しなかった場合、納付済み期間が38年となるため、老齢基礎年金の給付額は満額の38/40(5%減)74万1000円(-38965円)となってしまい、これが毎年一生続きます。

納付期間猶予期間老齢基礎年金差額
通常納付40年なし77万9300円満額
特例制度38年2年74万0335円-38965円
特例制度36年4年70万1370円-77930円
特例制度34年6年66万2405円-116895円

「年間で約4万円減るだけならいいか」と思う人もいるかもしれませんが、現役で働いている世代の4万円と、年金以外の収入が無い老後の4万円では同じ金額でも大きな違いがあります。

月額1万6,410円(2019年現在)の年金保険料を2年(24か月)猶予してもらった場合、金額は39万3,840円(以下、40万円)ですが、40万円を追納すれば毎年38965円(以下、約4万円)老齢基礎年金が増えるということです。

つまり、年金を受給し始めて約10年で納付した元が取れるということです。

厚生労働省が公表している平成30年(2018年)の簡易生命表によると、日本人の平均 寿命は、男性81.25歳、女性87.32歳で、世界的にもトップクラスです。

将来的には年金の減額・受給開始年齢の引き上げの可能性も十分ありますが、65歳から年金の受給を開始し、平均寿命まで生きた場合、男性で総額約64万円、女性では総額約88万円受け取れる年金が増える計算になります。

(追納して得したという意味では、男性24万円、女性48万円)

また、国民年金保険料は、全額「社会保険料控除」の対象となるため、一括で追納しても1カ月単位で追納しても税金の節約にもなります。節税額は年収により異なりますが、仮に、2年の猶予分 約40万円を一括追納した場合、年収が一般的な新卒大学生10年以内の年収の350万~400万円程度であれば、今年納める所得税と来年納める住民税で約6万円の節税になります。

追納をお勧めしない理由(デメリット)

学生納付特例期間については、10年以内であれば保険料をさかのぼって納めること(追納)ができます。学生納付特例期間の承認を受けた期間の翌年度から起算して、3年度目以降に保険料を追納する場合には、承認を受けた当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされます。

加算金の金額は経年数が多くなれば、それだけ加算額が大きくなり、3年前の1ヶ月分では20円ですが、10年前の1ヶ月分に対しては620円も余計にかかってしまいます。

卒業して早い時期に追納をすれば問題ありませんが、はっきり言って、この換算金がばかになりません。加算金という呼び方ですが利息・延滞損害金と同じようなものです。

学生の中には卒業と同時に奨学金の返済が始まるケースもあり、経済的に厳しいのであれば無理をしてまで追納をする必要はありません。猶予分を納付しなくても老齢基礎年金を満額もらえる方法をページ下部で紹介しますので合わせて検討してください。

【参考資料:追納額と加算金】

追納額/月当時の保険料1ヶ月あたりの加算金
平成21年度15,280円14,660円620円
平成22年度15,540円15,100円440円
平成23年度15,320円15,020円300円
平成24年度15,170円14,980円190円
平成25年度15,150円15,040円110円
平成26年度15,300円15,250円50円
平成27年度15,620円15,590円30円
平成28年度16,280円16,260円20円
平成29年度16,490円16,490円0円
平成30年度16,340円16,340円0円

追納をお勧めするケース

国民年金の学生納付特例制度で猶予された年間保険料の追納は義務ではなく任意ですが、下記のような方には追納をお勧めしています。

  • 今現在、自営業・フリーランスで加入している年金が国民年金のみ、または、将来的にそうなる可能性がある人
    (厚生年金に加入していない人は老齢基礎年金しか貰えず、受け取れる年金額が低い)
  • 民間保険会社の個人年金に加入を検討している人
    (お得・利回りという考え方をするなら国民年金のほうが優秀)
  • 早めの(60歳)リタイアを希望する人
    (後に気が代わり満額の年金を望む場合、60歳以降も働くまたは、任意で年金を納付日しなければいけない)
  • 猶予された期間(納めていない期間)が2年以上の人
    (許容できる年金の減額は年間4万円が限界と考える)

老齢基礎年金を満額受け取れる他の方法

学生免除を受けた者が老齢基礎年金(相当額)を満額受け取る方法は、他にもあります。下記の2つの方法は追納と異なり、加算金(いわゆる利息・延滞金のようなもの)は必要ありません。

国民年金の納付期間は20歳から60歳までですが、60歳から65歳の期間については国民年金に任意加入することができます。任意期間に国民年金保険料を納めれば、納付義務期間に納付した国民年金保険料と同様に「納付済期間」として扱われます。仮に、学生時代に2年間免除を受けた場合、60歳から62歳まで2年間保険料を納めれば、満額の老齢基礎年金を受け取ることができます。
60歳以降も厚生年金の適用事業所で働き続け厚生年金の被保険者である場合、老齢基礎年金の給付額には反映されませんが、老齢基礎年金相当額が「経過的加算」として老齢厚生年金に反映される仕組みになっています。仮に、学生時代に2年間免除を受けた場合、60歳から62歳まで厚生年金を納めれば、満額の老齢基礎年金相当額を受け取ることができます。

まとめ・総括

学生納付特例制度で猶予を受けた国民年金保険料の追納は義務ではありませんが、私は納付できる権利と考えるべきだと思います。

しかし、現行法をもとに考える場合、上述したように、追納以外にも老齢基礎年金(相当額)を満額受け取る方法もあり、加算金を負担してまで学生免除分の追納を絶対にしておいた方がいいとは言い切れません。

但し、追納以外の老齢基礎年金(相当額)を満額受け取るための方法は、60歳になったときに職があり仕事を続けられる体力的余裕、保険料納めるだけの経済的余裕があることが前提となります。

いずれにしろ、65歳から年金の受給を開始し、平均寿命まで生きることを前提とするのであれば、なにかしらの方法で学生時代に猶予された分の保険料を納め、満額の年金を受け取ることが最善であることに間違いはありません。

国民年金の学生納付特例制度については日本年金機構の公式ホームページをご確認ください。

国民年金保険料の学生納付特例制度